
No.734
イトラン
何十年も畑の片隅に、いつも黙って立っている植物がある。葉先に何度も足や手をひっかけ、痛い思いをした記憶として残っている。葉は鋭く尖り、触れると痛くて、子どもの頃の私は少し怖がっていた。名前を知ったのは、ずっと後になってからだ。あの頃は、やわらかいもの、美しいものばかりが好きだった。
けれど、大人になり、自分の手で畑を耕すようになった今、イトランを見るたびに、なぜか安心する。冬も枯れず、雨の日も風の日も変わらずそこにいる。たくましい葉を広げて、誰の手も借りず、ただ生きている。あの頃は気づけなかった強さと優しさを、今は少しだけわかる気がする。



