リンドウ

218rindo
第218回 リンドウ
「竜胆」。少し前にも淡紫のやさしい表情のリンドウを紹介しましたが、今日は山に自生する野のリンドウです。店頭で売られているものとはまったく違う空気をまとっています。山の冷気に当たるせいか細身の葉は一部色づいて堅くなった上に虫にもくわれ、柔らかさを排除した茎は山の強風にも容易に倒されません。厳しい姿だけれど、咲いた時の顔つきはひときわやわらかく感じます。 ところで話は変わりますが、私が幼い頃の実家では五右衛門風呂を使っていました。ぬるくなったら手のあいている家族にたき木をくべてもらい、熱くなりすぎれば窓そとからかきあつめた雪を湯船に投入するという、なんともワイルドでアナログな暮らしでした。そのたき木を山で集めてくるのは祖父の仕事。原付バイクに、杉の葉、風で落ちた枝、間伐材などをかき集めて、ついでに山菜なんかも携えて帰ってきたものです。 次世代である父も、今ではよほどの事がないと行かなくなってしまい、猫の額のような山の傾斜地も荒れ放題です。山に自生するリンドウにとっても、下草も刈らず、間伐もしない陽の届かない環境は暮らしづらいようです。リンドウを愛でる一方で、私は知らずに山の動植物を追いやっています。

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